Memorandum of Haruki 'ハルキの備忘録‘

yahooさんから 引っ越してきました。どうぞよろしくお願いします。

⑥『ポストの子 こはるさんの家に、ショートステイ1日、2日目』


5月3日 朝が来た。
昨日は 色んなこと考えて 眠れない 眠れないなんて 布団の中で横になっていたけど いつの間にか寝ていた。
この部屋は 2台の2段ベッドがある4人部屋だが 
1日の夜や2日の朝にみんな親や親せきの家に行ってしまったので
この部屋は僕一人だ。

朝ごはんを食事室に食べに行くと いつもの3分の1くらいの子ども達が 食事をしていた。
みんなで動物園に行くみたいではしゃいでいる。
学校が休みの日の朝食は バイキング形式で 好きなものをとって食べる。
好きなものといっても トーストにするかロールパンにするか、たまごは 茹で卵か
目玉焼きかくらいの選択だ。
僕は ロールパンと目玉焼き食べ 
そしてコンソメスープをカップによそって飲んだ。
サラダもあったが 玉ねぎのスライスが乗っていたので スルーした。

食べ終え 部屋に戻りリュックを背負い 職員室に行く。
部屋の真ん中の大きなテーブルの一番端に こはるさんが座っていた。
「冬馬君、おはよう。
それじゃあ 行こうか。」
そういって 立ち上がり僕のところに歩いてくる。


「たくさん楽しんでらっしゃいね。
 それでは こはるさんよろしくお願いしますね。」
先生たちは こはるさんにお辞儀をすると笑顔で僕に小さくバイバイと手を振った。
僕は 職員室の先生達に
行ってきますとお辞儀をした。

これでもうここに帰ってこない気がした。そんなことないのに、
そしたら 瞼が熱くなった。
僕は その様子を悟られないように廊下を歩く。

ホームを出て こはるさんと丘を下り駅に着き 特急電車に乗る。
電車はすぐ来た。
思ったよりすいている。
 通路を隔てて 右に2列 左に2列 席がある。
僕は こはるさんの横の席に座る。
こはるさんが勉強を教える時いつも僕の横に座っていたが
電車で横に座られるとなんか変な感じだ。
こはるさんは 自分が小学生だった頃 流行っていたアニメとか好きだったテレビ番組の話をしてくれる。
でも こはるさんの話が耳に入ってこない。

少し話すと こはるさんは 
「ごめんね。
睡魔が襲ってきた。
昨日仕事で遅く帰ってきてあまり寝てないから ちょっと寝させてね。」
と首に巻いていたストール広げ、膝にかけて寝てしまった。
僕は リュックから 借りてきたハリーポッターの本を出して読み始める。
本を読むと 周りが気にならなくなる。

半分くらい読み終えるころ 窓の外が急に明るくなった。
外を見る。
海だ、水平線が見え 船が浮かんでいる。
キラキラしている水面の上をかもめが飛んでいる。

こはるさんが 起きた。
「あと少しだからね。」
そういって こはるさんは 話を始めた。
「うちにはお母さんしかいないから 気楽にしていいからね。
冬馬君からみたら おばあちゃんみたいなもんだし。
そうそう、どこか行きたいとこある?」

「勉強をしに来たので 別にいきたいとこありません。
あのう お父さんはお仕事ですか?」

「ううん、お父さんは 家にはいないの。
 いるんだけど 一緒に住んでないの。」

「あっ そうですか?
 お忙しいんですね。」

「まあ そういうことかな。」
とこはるさんは笑って答えた。

岬駅に着いた。

タクシー乗り場に歩いていく。

「こはる先生! こはる先生じゃないですか。」
と背中で声がする。

「あっ 悠ちゃん、久しぶり。」

「こはる先生 帰ってきたんだ。」

声をかけたのは大学生くらいの女の人だ。

その女の人、お姉さんは 僕をちらっと見た。

「えっ、こはる先生の子ども?」

「私の子どもじゃないわよ せめて兄弟くらいにしてよ、
 この子は 冬馬君、私の友だちよ。」

お姉さんは 少し笑って
「随分 若いボーイフレンドですね。
 冬馬君 はじめまして、
 あたし 井出悠。
 先生の教え子で~す。
 よろしくね。」

そう言って 僕に握手を求めてきた。
僕は お姉さんの圧に押され、反射的に右手を出す。
お姉さん、悠さんの手は温かかった。

「先生 私 車、そこに留めてあるから 送っていきますよ。」
僕たちは 悠さんの車に乗り込む。
「さっきまで ミイと一緒だったんですよ。
それで 駅まで送ってきたところ。
先生と入れ違ったみたい。
ミイも先生と会いたかっただろうな~。」

「私もミイちゃんと会いたかったな~。」

悠さんとこはるさんの話は弾んでいた。
僕は ずっと外の景色を見ていた。
車はどんどん山の方に登っていく。
緑がいっぱいだ。

山の中にどんといきなり大きなマンションが現れる。
このマンションがこはるさんの家のようだ。
こはるさんは 悠さんに家に寄るように言うが 
悠さんは 明日までに仕上げなければいけない仕事があるということで
僕たちをマンションの前で降ろし
「先生 また連絡しますね。」 
ともときた道を折り返し 走って行った。
マンションの出入り口の床は大理石だ。理事長室と同じ床だ。
ホームの子ども達が 理事長室は すごいよなあ 床は大理石って言う高い石らしいぞ、という話を聞いていたので 僕もその名前を知っている。
前を見ると大きなガラスの向こうに海が見える。
そしてそこにソファが4つ置いてある。
僕は ホテルには 行ったことがないが 
そこは、テレビの旅番組で見る高級ホテルみたいだ。
こはるさんの部屋は1階だ。
廊下を歩いていると ドアが開いて こんにちは、と僕に声をかけてくるおばさんがいた、
こはるさんのお母さんだろう。
こはるさんはおばあさんだと言ってたけど 
おばあさんではなく品のいいきれいなおばさんだ。
目がこはるさんとよく似ている。

リビングに入る。
目の前の掃き出しの窓の外に海が広がっている。
キッチンの前に4人掛けのダイニングセットが置かれ 
その横に大きなテレビ。
そしてその前に長いソファがある。
僕は 促され 椅子の下にリュックを置き、座る。
こはるさんは僕の向かい側に座る。
こはるさんのお母さんは 飲み物を用意している。
僕は いつ言おう 言おうかと考えていたが、、
思い切って 椅子から立ち、
「岬 冬馬です。お世話になります。よろしくお願いします。」
と自分では 精一杯大きな声で言い 頭を下げた。

「冬馬君 こちらこそよろしくね。
わたしも 母さんも 冬馬君が来てくれてすごくうれしいよ。
なんでも言ってね。」
とこはるさんが 僕の顔をみる。

「冬馬君からみたら おばあちゃんだけど 料理だけは得意なんだよ。
 遠慮しないで冬馬君の好きなもの教えてね。
 それから私のことは おばあちゃんって呼んでくれればいいからね。」

「おばあちゃんじゃないと思うから おばあちゃんとは、、、」

「それじゃ 春さんって呼んで みんなそう呼ぶから、
 でも こはると春じゃわかりにくいかな?」

「いいえ 春さんと呼ばせてもらいます。」

「それじゃ 冬馬君 よろしくね。」

と言って 春さんは オレンジジュースの入ったグラスを僕の前に置いた。
僕は 「いただきます。」
とそれを一気に飲んだ。

玄関を入ってすぐ左側の部屋に案内された。
この部屋は 自由に使っていいからと言われ
疲れただろうから 少し休めばと 僕を一人にしてくれた。
ここが僕の滞在する部屋みたいだ。
ここは こはるさんの部屋だったらしい。
つくり付けの大きなクローゼットがあり、部屋には机とベッドが置かれている。
でもおかあさんのところに来た時に泊まるだけの部屋らしい。
机には 何も置かれていなかった。それとも片付けたのかな?
僕は リュックを開け持ってきたノートや本を机の上に出した。
そして べッドの上に大の字になって寝た。
真っ白な天井には 窓からの光の影がさしていた。
僕は それをずっと見ていた。
普通の家に生まれていたらこんなふうに一人の部屋で過ごせたのかな。
僕はいつの間にか眠ってしまった。

僕が起きた時 もう外は真っ暗だった。
時計を見た。 7時30分だ。
リビングに行くと こはるさんがソファで本を読んでいた。
僕に気づくと
「よく寝たね、ごはんにしましょうか。」
と言って さっき座っていた場所に僕を促す。

夕食は ハンバーグだ。ハンバーグの上に半熟の卵ものっていて 
その脇にレタスとフライドポテトが添えてある。コーンスープもある。
全部 僕の好物だ。
いつも、ごはんは一杯しか食べないが 今夜はおかわりをした。
そんな僕を見て こはるさんんも春さんもにこにこ笑っている。

「勉強は 明日からにしようか。」

「ちょっとだけします。」

「そうか、頑張るねえ。
 じゃあ 今夜は 国語の勉強をしようか。」

そういって 3人で食事の後片付けをし また椅子に座る。

「それじゃあ しりとりをしよう。」

3人でしりとりをする。
僕は したくなかったが それを許さない空気だったので しかたなく参加する。

何度かしりとりをした後で こはるさんは 漢字カードというものを出してきた。

一つの漢字がへんやつくりなどで2分割されていて それを合わせていくゲームだ。

最初8枚づつ カードが配られる。
それで 一つの漢字を作り 自分の前に出していく。
自分の持ち札が最初になくなった人が勝ちで
自分のターンで漢字がつくれないと
カードの山から一枚ひく。

このゲームはおもしろい。
変な漢字が出されると
「こんな漢字あるのかなあ。」
とこはるさんは電子辞書で調べる。

僕の知らない漢字も多かったが 予測して漢字を作り出すと 
その漢字が正解だったりする。

3人でわあわあ言いながら ゲームをする。
僕はどんどんゲームにのめり込む。


こはるさんも春さんも手加減をしてくれないので5回して 
僕は1勝しかできなかった。 

それから 3人でマンション内の大浴場に行く。
温泉らしい。
僕は 何度か銭湯に連れて行ってもらったことがあるので 
大丈夫だといって、大浴場の入り口で 2人と別れた。

脱衣所には おじいさんが 風呂からでたきたところみたいだ。
僕は軽く会釈して 一番端の真ん中のローカーを開け 服を脱ぐ。
おじいさんは 
「今日は 暑かったねえ。」
と言いながら シャツを頭に通していた。
「ええ、」
とだけいって 僕はお風呂場の戸をあけ中に入る。

中には誰もいなかった。
正面に大きなガラスがあり その先は坪庭になっていて海らしきものが見える。
この建物は高い所にあってどこにいっても 海が見えるみたいだ。

誰もいないから 僕は頭を出して 平泳ぎをした。
背泳ぎもした。
泡がぼこぼこ出ているジャクジーに 足や腰やお尻 
いろいろなところを当てて楽しんだ。

僕がお湯からでて シャワーで頭を洗っていると おじさんと小さな子どもが入ってきた。親子みたいだ。
子どもは はしゃいでいて すぐ風呂に入ろうとし お父さんに 洗ってから入るように注意されていた。
僕に注意されている気がした。
僕は すぐお湯の中に飛び込んだからだ。

僕は お風呂から出て 部屋に戻った。
部屋のドアは 空いたままで まだこはるさん達は 帰っていない。
僕は 冷たいものが飲みたかったが 冷蔵庫を勝手に開けられなくて 
車内で飲み残した生温かいジュースを飲んで リビングからベランダに出た。
ベランダには 円いテーブルとイスが2脚置かれている。
僕は ベランダの手すりに手を置いて遠くを見る。

暗い暗い海だ。
舟が白いライトをつけて停留している。
釣り舟かな。

ドアが開く音がし
「あついねえ~。」
そう言いながら こはるさん達がもどってきた。
「お風呂、あつかったでしょ?
冷蔵庫を開けて 好きなもの飲んでいいからね。
まあ 麦茶とジュースくらいしかないけどね。」
こはるさんは、冷蔵庫から麦茶を出し グラスに注ぎ ベランダにいる僕に持ってきてくれた。

僕はグラスを持って部屋の中に入る。
ドライヤーの音がする。
春さんが洗面所で髪を乾かしているのだろう。

テレビの上の時計を見ると もう少しで10時だ。
ホームなら 布団の中に入っている時間だ。

僕は 2人におやすみなさいの挨拶をして 
僕の部屋に行く。
僕の部屋、、すごくいい響きだ。
僕だけの空間、、、。
僕は 部屋の電気を消し ベット脇のテーブルに置かれたスタンドをつけ
寝ながら本を読んだ。
昼間寝たから あまり眠くない。
ハリーポッターの残りの半分を読み終え 目を閉じた。

ホームの朝は いろいろな音がするが ここは何の音もしない。
ぼうと天井を見ていたら 外からチャイムみたいな音がした。
時計を見たら 9時だった。
後で聞いたのだが この町では 9時と12時と5時にチャイムが鳴るらしい。
農作業や港で働いている人達への仕事始め、昼、終了の合図らしい。
僕は、急いで着替えて リビングに入ると珈琲のいい匂いがした。
こはるさんは ソファでテレビを見ていて、春さんは ダイニングの椅子に座って新聞を読んでいた。
そのテーブルにはラップがかかったお皿が乗っていた。

僕が 「おはようございます」
というと
「おはよう、昨日はよく眠れた?」
とこはるさんが 僕の顔を見る。

「冬馬君おはよう、
もう私たちは ごはん食べたから 冬馬君は こちらにどうぞ。」
と春さんは昨日座った椅子に手招きする。
この椅子が僕の指定席なんだ。

大きなお皿にかかっていたラップをとると 
ブリオッシュとクロワッサンのパン、
半熟のハムエッグとポテトサラダ その横にプチトマトが3つ乗っていた。
僕の好きなパン 目玉焼きの焼き加減も好みだ。
ポテトサラダには 僕が苦手な生の玉ねぎが入っていない。
春さんは 温めた味噌汁をおき、コーヒー牛乳をグラスに注いでくれた。
僕が普通の牛乳が苦手なことを知っているのかな。
味噌汁の具は たけのことわかめだ。
今日も僕の好きなものばかりだ。
「パンまだ たくさんあるからね。」
と春さんは パンが入った袋をテーブルに置いた。
ホームでは 朝はパンは多くても2つしか食べないが、 
おいしくてブリオッシュをもう一つ食べた。

僕が食べ終わる頃 春さんもこはるさんも向かい側に座り 珈琲を飲み始めた。
僕もすすめられたが 珈琲は前に一度飲んで美味しくなかったので断った。
春さんは 僕にレモンテーを入れてくれた。
冷めるまで僕はカップの中でぷかぷか浮いている輪切りになったレモンを見ていた。

こはるさんは テーブルに画用紙に書いた計画表なるものを広げた。
今日と明日の夕方までの時間割だ。
5月4日
10時~12時 学習 算数 流水算
12時~16時 食事 遊び

16時~18時 学習 算数 鶴亀算

18時~20時 食事 風呂

20時~21時 学習 国語

5月5日
 9時~12時 学習 国語 長文読解 知識問題
12時~15時 食事 遊び
15時05分発の電車に乗る。

「こんな感じで作ってみたけど どうかな?」

「はい でも遊びの時間が多くないですか?」

「緩急をつけて 勉強した方が効率がいいし
それにね、私もおかあさんも冬馬君とたくさん遊びたいんだ。」

とこはるさんは笑っている。
僕は緩急と言う意味が何となくしかわからなかったが、
こはるさんにつられて笑った。

僕の部屋の机で勉強した。
こはるさんの会社の見本ワークを僕にくれた。
流水算は難しいのでその説明を丁寧にしてくれた。
そして 例題を一緒に解き 今度は 僕一人で挑戦だ。
こはるさんは できたら 呼んでねとリビングにいってしまった。
例題はスラスラ解けたのに 一人で解くと全くわからない。

ある川のA地点とB地点を往復する船があります。
川の流れの速さは 毎時3.5kmです。
上りには5時間、下りには3時間かかりました。
A地点とB地点は 何メートル離れていますか?

まず図を書いて考えてみよう。時間がかかりそうだ。

こうして僕のこはるさんの家での2日目が始まった。

僕の部屋の窓からは 山が見える。空も見える。
青い空を複数のトンビがヒュールルル ヒュルリンと鳴きながら大きく旋回し
どこかに行ってしまった。
頑張れ!と励まされている気がした。






答え 52.5km


答えは 合っていましたか?
ご不明の点は 次のポストの子⑧をご覧ください。