Memorandum of Haruki 'ハルキの備忘録‘

yahooさんから 引っ越してきました。どうぞよろしくお願いします。

⑧ポストの子 ホームステイ2日目 岬公園墓地管理事務所。

 今夜も大浴場に行った。
湯船には 昨夜いた 親子一組。
僕は「こんばんは、」と会釈し シャワーで身体を洗い始める。

小学1年生くらいの子どもは 泳いでいて 
僕が風呂場の戸を開けると父親の傍に急いで行ったみたいだ。
上目づかいで僕を見ていた。

親子はサウナ室に入ったが 子どもは「あちちっ」とすぐに出てきた。
そして小さい風呂にどぼんと入った。
僕は頭を洗いながら 鏡ごしに男の子の姿を追う。
今度は「ひゃ~」と叫んで出て 今度は湯船に入った。
父親はサウナ室から出てくるとシャワーを浴び
「もう でるぞ。」
と脱衣所に行く。
子どもは 湯船から出て 父を追う。
誰もいなくなった。
僕は 気になっていたサウナ室に入った。
でも熱いのですぐ出た。
そして小さい風呂に足の先を入れる。
つめたっ 水風呂だ。
僕は 入るのをやめ あったかい湯船にどぼんと飛び込んだ。
そして 泳いだ。
今日は クロールもした。
でも おじさんの2人組が入ってきたので 僕は何もしてないふりをしてすぐ出た。


部屋に戻る。
こはるさん達は まだお風呂みたいだ。
僕は 冷蔵庫からジュースを出し グラスに注いで飲んだ。
うまい!

そして グラスを洗って ベランダに出る。
ほてった体に夜風が気持ちいい。
暗い海に 白いライトの船が2艘浮かんでいる。




夕方 春さんの職場に行った。
墓地と聞いていたから 怖そうだなと思ったけど
僕が 想像していたものとは違った。
僕とこはるさんが 墓地に行くと
春さんは ホールの受付にいた。
僕たちに気づくと 出てきて、管理事務所の休憩所に案内してくれた。
ソファにすわると 海が見える。
マンションより 高いところにあるから 海と岬町が全部見える。
僕が降りた駅や線路も見える。
春さんがは
「ゆっくり遊んでいってね。」
と冷たい麦茶を出してくれ、ホールの方にいってしまう。
駅に電車が入ってきた、そして出ていく。
景色を見ながら 麦茶を飲んでいると 
「こんにちは。
こはるさん 久しぶりだね。」
とおじさんが休憩所に入ってくる。

僕は 軽く頭を下げる。
「冬馬君だね。
春さんから こはるさんの友だちが来るって聞いていたよ。
私ね 名前が寛だから みんなからひーさんっていわれてます。
よろしくね。」
そういって笑った。

ひーさんは こはるさんと世間話をして また事務所に戻った。
僕は 電車がこないかなと外をずっと見ていた。

僕とこはるさんは 公園墓地のビーチに降りた。
静かな海岸だ。
誰もいないと思ったら 一人のおじさんが こっちに歩いてくる。
「秋さ~ん こんにちは。」
こはるさんは そのおじさんに声をかけ手を振る。

「こはるさん こんにちは。元気でした?」
こはるさんと同じ年くらいのおじさんだ。
「冬馬君、こんにちは。
ここのビーチ きれいでしょ?」

僕が 頷くと秋さんは秘密の場所に連れて行ってくれた。
ビーチの一番端で石垣があり その奥がほらあなになっている。
そのほらあなの高さは 秋さんの身長より少し高く、分度器みたいな形で 
声がよく響く。

ほらあなを背に海を見ると ドームの中の僕だけの海のような気がする。
足下は岩で少し水が入ってきている。

秋さんは、しゃがみ 何かを探している。
僕もこはるさんもしゃがんで下を見る。
かちゃかちゃとなにか動いている、
やどかりだ
僕は捕まえようとしたが 岩の下にはいってしまった。
小さなカニもいる。
秋さんは さっとカニをつかまえて僕にくれた。
僕は 秋さんに かしてもらったバケツの中にそのカニを入れた。

こはるさんも捕まえようとするがなかなかつかまらない。
秋さんはつぎつぎと捕まえる。
僕も2匹のカニを捕まえた。
やどかりを捕まえたいな~

バケツの中にはカニが8匹 やどかりが2匹 がしゃがしゃ動いている。

「秋さんは それじゃあ もう家に戻してあげようね」
と言ったので僕は バケツをそっと傾けた。
カニとやどかりは我先にといろいろなところに散らばっていく。

みんなお父さんや お母さんのところに行くのかな?
ひとりぼっちのカニもいるのかな?

ビーチの広いところで 秋さんとキャッチボールをした。

秋さんは ひょうきんだ。
「冬馬投手投げました、ストライク!」
とかいって 僕は思わず笑ってしまう。
こはるさんもバッターとして加わる。
「助っ人美人 こはる選手参上です」
といって ふざけている。
僕は久しぶりに声を出して笑った。

海岸から墓地に戻る。
きれいなお墓がいっぱいだ。
僕は 一つ一つのお墓を見たくなった。
こはるさんと通路を歩く。
お墓を見ながら歩いているとすごく気持ちが落ち着く。

墓石の後ろや横に亡くなった人の名前や年齢が彫られている。
当歳と彫られているのがあるが当歳って何だろう。
こはるさんに聞くと生まれてすぐ1歳までで亡くなった赤ちゃんのことだと
教えてくれた。
当歳か~ 

もし ポストがなかったら僕は当歳と墓石に彫られたのかな。

でも つながりがあるからお墓があり そこに家族の名前が彫られる。
僕には つながりが何もないから 僕が死んでもお墓もないし 
お墓に手を合わせる人もいないんだろうな。




歩いていると くまみたいなおじさんに会う。
「こはるさん 久しぶりだね。」

「くまさんもお元気でしたか?」

このくまみたいなおじさん くまさんっていうのか、

「冬馬君だね、こんにちは。
 ここは 海も山もきれいだよ。
 たくさん遊んでいってね。」
と僕を見る。
くまみたいだけど やさしい目をしたおじさんだ。
僕は
「はい。」
と頷く。
くまおじさんが歩くと 後ろから猫がくっついて歩いていた。
くまと猫 変な組み合わせだ。
僕は猫に触りたかったが 猫は 僕を無視して歩いていた。

墓地の隅の一画は 花壇墓地というところらしい。
お墓の前に パンジーやチューリップなんかが植えられている。
ここは特に 華やかだ。
墓石に彫られている年、当歳、2歳、3歳、12歳、18歳、24歳、、、、
若い年がたくさん彫られている。
犬の名前も多い。
人形やミニカー、犬の置物、お菓子、ジュース いろいろなものが供えてある。

死んじゃったのは かわいそうだけど 彫られた文字がなんかうらやましかった。




休憩所にもどると 春さん ひーさん 秋さん くまさんがいた。
テーブルの上には 小さな丸いチョコレートケーキが置いてある。
「明日 子どもの日だから みんなでケーキを食べようと思って、、
冬馬君 よかったら 付きあってくれる?」
と春さんが言う。

僕は胸がいっぱいになって、、
「うん」と 頷くだけで精一杯だった。

ホームでも学校でも誕生会や入学の祝いとか僕達を祝ってくれることはあったが
なんか形式的で、いつも僕は みんなの好意にこたえようと作り笑いをしていた。


秋さんは ろうそくを12本立て 火をつけた。
先月の27日は 僕の誕生日、
僕がポストから生まれた日だ。

僕は ろうそくの火をふーと一息で消した。
みんなが笑いながら手をたたいている。

ここの人達は なんか違う。
僕と同じ何かを持っている気がする。
僕の周りにいる人達は 僕をこう呼ぶ。
ポストに置き去りにされた子、
児童養護施設のホームの子、
かわいそうな子、
特別な子、
助けてあげなければいけない子、

でも僕は ここにいると岬 冬馬でいられる。
無理しなくても 背伸びしなくても 気を遣わなくてもいい、
僕は 小6の岬 冬馬でいられる。





停留していた2艘の船は 港に戻っていくようだ。
船の光がなくなり 海は 暗い 静かな海になった。

明日は ホームに帰る日だ。
帰りたくない。
でも帰らないといけない。

いつもは聞きわけがよく 自分の気持に冷めていた僕だが
今夜は、、、


こはるさん達が お風呂からもどってきた。
僕は 涙を拭いて ベランダから部屋に入ろうとした。
でも こはるさんと春さんの顔を見たら
何かが切れてしまい 涙がとまらなくなった。

こはるさんと春さんは 
「ずっとつらかったね がんばったね」
と 僕の頭をなでてくれた。
春さんは 僕をぎゅっと抱きしめてくれた。
僕は 春さんの胸の中で赤ちゃんみたいに泣いた。
こはるさんも泣いていた。
僕の頬に春さんの濡れた髪が触れた。
いい匂いがした。



その夜、 涙の雨が暗い静かな海に降りつづけた。

でも夜は明け 明日は来る。

時間よ。とまれ。











おまけ
庭にクレマチスが咲いた。
何も世話をしないのに 同じ時期にきれいな花を咲かせる。
ホント えらいよ! クレマチスさん!
ありがとね。