Memorandum of Haruki 'ハルキの備忘録‘

yahooさんから 引っ越してきました。どうぞよろしくお願いします。

② 『ポストの子、先生の過去 』

 朝から 小雨が降っている。

 今日の日曜学校に来る人は 少ないだろう。
 僕は ホームのみんなより遅く、教会に入り一番後ろの席に座る。

 この前 知り合った高校生はいない。
 今日は 雨だから来ないのかな?

 始まる少し前に 高校生2人は教会に入り 僕とは違う列一番後ろの椅子に座る。

 聖書を読み
 讃美歌を歌い
 お祈り、
 お話
 といつもの日曜学校だ。

 僕は 落ち着かず 時々 椅子から身を乗り出して高校生2人の姿を確認する。

 お話が終わり みんな次々に外へ出て行く。
 今日は 人が少ないので 僕は 自分の姿を見られないように 下を向き
 身体を小さくして後ろの席で座り、みんなが出て行くのを待つ。


 僕が外に出ると 雨はあがっていた。
 横を見ると 入り口の脇のところで 高校生が待っていた。
 雨で先週約束したベンチが濡れていたからだ。

 僕を見つけると
「こんにちは。
 ベンチ座れないけど どこで話する?」

 僕はお辞儀だけする。

 「大学のカフェテリアに行こうか、
 そこでいい?」

 僕は 頷く。

 高校生の後を少し離れてついていき、大学のカフェテリアに入る。

 外からガス張りのここのカフェテリアは見たことは あるが入るのは初めてだ。

 さっき日曜学校に来ていた人達もいる。

 受験に有利になるように日曜学校に参加したのであろう子どもを連れた
 親子連れも いる。
 どの親子連れも 紺色の服を着ていて 同じような髪形で 
 雰囲気も似ていてすぐわかる。

 でも僕の知っている顔はない。


 ここのカフェテリアは、注文しなくても 自習したり 
 本を読んでも大丈夫な多目的な場所らしい。

 「オレンジジュースでいい?」

 「僕 お金もってないから いいです。」

 「ジュースぐらい奢ってあげるよ。」

 そう言って 

 高校生の一人が、ジュースのはいったグラスをトレイにのせて 持ってくる。

 セルフサービスみたいだ。

 僕は そのジュースを ストローで一気に飲んだ。

 「そうそう この前別れてから 気づいたんだけど 
 お互い名前知らないんだよね。
 あたし なつみ 夏に実って書くの。」

 「私は、あきな 秋に野菜の菜を描くって言う字、よろしくね。
 君は?」

 「僕は とうま 冬の馬、、」

 「冬生まれなんだ、いい名前だね。」

 「でもね。クラスの友だちから とまとってよばれてる。」

 「えっ?トマト?」

 「最初、とんまって呼ばれていたんだけど、学校の先生が 
 とんまという呼び方を注意したら トマトになったんだ。」

 「栄養たっぷりで 誰からも好かれるトマトだね。」

 「でも僕は こんなに小さくて細いし 人気者でもないよ。」


 あきなとなつみ 短くしたら あきなつみだな。

 なつみが塾の先生から聞いてきた話をする。

 中学受験の試験日は 2月の始めなので、 後、8か月しかない。
 それで 偏差値60以上の私立中学受験をし特待生で合格するのはかなり難しい。
 一般的には 3年の終わりに受験勉強を始め、
 6年生では 放課後 3時間塾で勉強し、
 塾で夕食のお弁当を食べ、家に帰ってからは塾の宿題をし 12時ごろ就寝。
 土日もテストがあり 自由時間がほとんどない。
 そういう生活をしている子ども達と一緒に受験することになる。

 僕は 唖然とした。
 クラスに受験のための塾いっている人はいるが、
 そんなに過酷な生活をしているとは知らなかった。

 何の言葉もでない。

 「でもね、頑張る気持ちがあるのなら 挑戦するのもありだっていっていたよ。
 それでね、一度先生が会って 話をしたいって言ってたけど どうする?」


 「僕 わかんなくなっちゃいました。」


 「そうだよね。
 じゃあ、よく考えて連絡して、」

 そう言って あきなさんと なつみさんは 紙に携帯番号を書いて僕に渡した。

「来週も日曜学校来る予定だから その時でもいいからね。
 でも 受験する気があるんだったら 早めに勉強始めた方がいいと思うよ。」

 僕は お礼を言って 席をたった。

 椅子に座っている2人は 僕に手を振った。 




 僕は、走ってホームに帰り トイレに行き すぐ図書室に行った。

 今日は 天気が悪い休日だから 図書室の椅子は 半分くらいうまっていた。

 僕は お気に入りの『にんじん』の本を手に取り、
 一番すみの空いていた席にすわった。

 目で本の字を追っているが ほとんど頭の中に入ってこない。
 さっき教えてもらった話が ぐるぐると頭の中を回っていた。

 やはり無理なのかな~
 でも 小学校とほとんど同じメンバーでの中学校生活を思い浮かべると
 暗くなる。

 夕飯になった。
 食事室でみんなで食べる。
 先生やボランティアで手伝いに来ている大学生も一緒だ。
 ホームの先生が 僕に声をかける。
 「冬馬、食欲ないみたいだけど 体調悪いのか?」

 「いえ、ちょっとボーとしていただけです。」
 そう言って おかずの豚肉の生姜焼きをほおばって食べる。

 「後で 先生の部屋に来てくれるかな~
 頼みたいことがあるんだ。」

 「はい、」

 僕は 食事の片づけをし、職員室に行く。

 ホームの職員室は 学校の職員室とは違い 
 真ん中に6人がけのダイニングセットが 置かれていて 隅に先生の机が4つある。

 先生と僕以外誰もいない。

 先生に促され 僕は 椅子に座る。
 先生は  一つ空けて 横の椅子に座る。

 先生は 僕に最近読んだ本の話をした。
 僕に頼みごとがあるのでは、ないのか、

 ほとんど 僕の知らない本の話ばかりだった。
 僕が読んでいる本を聞かれた。
 さっきまで読んでいた「にんじん」と答えた。

 先生も小学生のころ、それを読んでいて 感動したらしい。

 先生は 「食べるか?」と言って、戸棚からクッキーを出して 
 袋のままテーブルに 置いた。
 先生は、クッキーを一枚とると そのまま口にほおりこみ食べた。
 先生が 袋を 「食べな」と僕のところに持ってきたので 
 しかたなく一枚とって少しづつ食べた。バタークッキーだ。

 先生は、最近 僕の様子がいつもと違うことに心配していた。
 僕は普通にしていたつもりだが なにかおかしかったらしい。

 先生は 何か気になることがあったら 言うようにといったが、
 僕は 下を向いてクッキーを食べていた。

 理事長から 僕が進路のことで 相談に来たことを聞いていたらしい。
 そのことで 希望があるのなら 話すように言われた。
 僕は 正直に自分の希望、私立中学に行きたいと伝えた。
 そして そのことを日曜学校にくる高校生に相談したことも話した。

 先生は僕にこういった。

「話してくれてありがとう。
 冬馬は いつも周りの人のことばかり気遣っているから 言えなかったんだよな。
 先生は ホームではないけど 小さい頃 母親と一緒に暮らせなかったんだ。
 ホームのみんなは 知らないけど、冬馬は 小さいけど大人だから話そう。
 
 先生はね。お父さんがいないんだ。
 冬馬から見れば 贅沢なこと言ってると思われるかもしれないけど。
 先生のお母さんは 結婚しないで 僕を産んだ。
 いわゆる未婚の母の子どもだ。
 お母さんは 看護師でね、
 生まれてすぐ職場の保育園に預け 働いていた。
 でも 病院の勤務と僕の世話でお母さんの体調が悪くなって
 先生は 田舎のおばあちゃんの家に預けられたんだ。

 それから お母さんは また元気になって病院で働き始めた。
 先生は お母さんと離れ おばあちゃんの家で過ごすこととなった。
 おばあちゃんは やさしくて先生は、はおばあちゃんが大好きだった。
 おじいちゃんもよく遊んでくれて いろいろなところに連れて行ってくれた。
 でも、おじいちゃんは アル中でね。
 飲んでない時は いいんだけど お酒飲むと 
 暴言はいたり、おばあちゃんをぶったりして手がつけられなくなるんだ。
 

 おかあさんのお兄さん、先生からみるとおじさんもここで暮らしていたんだけど
 先生のことが目ざわりだったみたい。
 意地悪は されなかったけど かわいがられた思い出はない。 
 それで おじさんは、おじいちゃんと仲が悪くてね。
 おじいちゃんがお酒飲んで、暴れると取っ組み合いのけんかになることもあった。
 おばあちゃんは 泣きながら 2人を止めていた。
 先生は 廊下でその様子を そおっと見ているんだけど
 怖くて 寝る部屋にいって震えていた。

 お母さんは、最初 おばあちゃんの家から近い病院で働いていた。
 でも、おじちゃんがその病院によっぱらって暴れて 何度か迷惑をかけてらしい。
 それで おかあさんは 実家から離れて 暮らし 仕事をしていたらしい。
 だから おかあさんは あまり実家に帰りたくなかったみたいだ。
 でも病院が 休みの日には 必ず 先生に会いに来てくれた。
 すごくうれしかった。

 おかあさんが 大丈夫?って聞くたびに 先生は 大丈夫と答えていたよ。
 先生も小さいながら おばあちゃんの家で嫌なことや早くお母さんと暮したいこ
 と、正直な事は言ってはいけないと思っていた。


 先生は 小学校の入学するのと同時に お母さんのところに帰ってきた。
 
 一人でお母さんを待つことは 多かったけれど おばあちゃんの家みたいに、
 びくびくしなくてもいいから さみしいのはそんなに気にならなかった。
 大人が思う子どもにいいと思うことと 本当に子どもが望んでいるものは
 違うとういことを身にしみて 感じたよ。
 
 先生は、冬馬じゃないから 同じ気持ちにはなれないかもしれないけど、
 冬馬が先生や周りの子ども達に気を遣って自分の気持ちを言えないのはわかるよ。
 無理しなくてもいい、でも冬馬が心配なことは先生にも教えてくれよ。
 
 
 中学受験のことは 一緒に考えような。
 先生も調べてみるよ。」

 先生は そう言って またクッキーを1枚口に入れた。

 僕は 下を向いてクッキーを食べていたが 
 僕の目から涙がぱたぽた落ち、床を濡らしていた。



 僕は 袖口で涙と鼻水を拭きとり、ベットの部屋に行った。

 同じ部屋の6年生達は 食事室で テレビを見ているみたいだ。

 僕は 2段ベッドの上に乗り カーテンをひいて 
 布団に顔をうずめて布団をかけていろいろなことを考えた。

 何が悲しいのか くやしいのか それとも嬉しいのか 涙が止まらなくなった。

 そしていつの間にか寝てしまったようで 起きて 時計を見たら朝の5時だった。

 そっとベッドの部屋を出て 勉強の部屋に行った。
 自分の机の下の棚から ランドセルを出し 時間割を見て教科書を入れ、
 鉛筆を削った。

 

 勉強の部屋のカーテンを開けると 日の光が きらっと入ってきた。
 
 まぶしい!

 今週は 長い1週間になりそうだなあ。