Memorandum of Haruki 'ハルキの備忘録‘

yahooさんから 引っ越してきました。どうぞよろしくお願いします。

『いつか、虹の向こうへ』伊岡瞬

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 ある不祥事をきっかけに刑事をやめ、転落の人生をおくっている中年男性。
そこで同居する訳ありの人々。
そして繰り広げられる様々な事件。
ハードボイルドなストーリーだが 人情味あふれる内容であきさせない。



最後に「虹の種」の寓話が出てくるが この話が 『いつか、虹の向こうへ』の本質を語っているようでグッとくる。

実は虹の種の材料は、人の悲しみでできていた。
だから話の中身が悲しいほど大きな虹ができる。男は、その悲しみの材料の中から、二割をもらってためておく。
やがてそれをひとつにまとめて大きな大きな虹をつくり、お城でお祝いごとのあるときに売って金を稼ぐのが商売だった。
そして残りの八割を虹の種に変えて、話をしてくれた人に返す。
男は一週間ほど滞在した。みんなに次々に悲しい話をしては、自分の土地に虹をつくってみた。
仲の良さそうな新婚夫婦の家から大きな虹が立ち上がったり、いつも泣いて愚痴をこぼしている老婆が、にんじんくらいしかない虹しかつくれなかったり、いろいろだった。
ある日、ひとりの少女が虹売りの幌馬車を訪れた。『わたしにも虹の種をください』両親を亡くして、親戚の家で育てられている少女だった。
彼女はとても朗らかで、誰にも親切にして、皆から好かれていた。育てられている家の主人は町で大きな店を経営している金持ちで、やさしくていい人という評判だった。
少女はとても恵まれて幸せそうに思われていた。
だから、少女が虹の種をもらいに来たとき、みんなこう思った。
『今夜は雨だから、明日はきっと虹が見られる。あの子の腕くらいしかないかわいらしい虹がな』
次の朝、窓を開けた町の人々はとても驚いた。今まで見たこともないほど巨大な虹が町の空にかかっていたのだった。そしてその虹は、なんとあの少女の住む家の庭から立っていた。人々はその意味を悟った。


『いつか、虹の向こうへ』は、伊岡瞬さんのデビュー作で
第25回横溝正史ミステリ大賞&テレビ東京賞のW受賞した作品だ。
この前読んだ『瑠璃の雫』もミステリの中に優しさがあり 油断すると涙してしまいそうな作品だった。伊岡瞬さんの作品の根底にある温かいものにふれると優しい気持ちになる。               



パンダの朝食。